『借りぐらしのアリエッティ』でスピラーの声を担当したのは、俳優の藤原竜也さんです。雑談中の声を鈴木敏夫プロデューサーが気に入り、急きょ起用が決まりました。
藤原竜也さんは普段の熱演とは対照的な、短く抑えた話し方でスピラーの野性味と不器用な優しさを表現しています。
『借りぐらしのアリエッティ』スピラーの声優は藤原竜也
『借りぐらしのアリエッティ』で、野外に暮らす小人の少年・スピラーを演じたのは藤原竜也さんです。
スタジオジブリの公式作品情報にも、藤原竜也さんは声の出演者として掲載されています。
映画『借りぐらしのアリエッティ』は、2010年7月17日に公開された約94分の長編アニメーションです。監督は米林宏昌さん、企画・脚本は宮﨑駿さんが担当しました。
主な声の出演者は、次のとおりです。
- アリエッティ:志田未来さん
- 翔:神木隆之介さん
- ホミリー:大竹しのぶさん
- 貞子:竹下景子さん
- スピラー:藤原竜也さん
- ポッド:三浦友和さん
- ハル:樹木希林さん
藤原竜也さんと聞くと、舞台や実写映画で感情を激しくぶつける演技を思い浮かべる人も多いんじゃないかな?
ところが、スピラー役では声を張り上げるような演技はほとんどありません。
スピラーは物語の後半に現れ、必要最低限の言葉しか口にしない人物です。藤原竜也さんは自分の俳優としての存在感を前へ出すのではなく、声をキャラクターの暮らしへ溶け込ませています。
僕も出演者を意識せずに見たときは、すぐに藤原竜也さんだと気づきませんでした。
それでもスピラーの短い声は、妙に耳へ残るんですよね。
目立つ芝居をしないのに、登場人物の生きてきた環境まで想像させる。
ここが、藤原竜也さんによるスピラー役の大きな魅力です。
スピラー役に藤原竜也が選ばれた起用秘話とは?
藤原竜也さんは、最初からスピラー役の候補として決まっていたわけではありません。
2010年6月3日付のシネマトゥデイの記事では、スピラー役の選考が難航するなか、藤原竜也さんの出演が急きょ決まった経緯が報じられています。
起用までの流れを整理すると、次のようになります。
1. スピラーに合う声の人物がなかなか見つからなかった
2. 藤原竜也さんがスタジオジブリの事務所を訪れた
3. 鈴木敏夫プロデューサーが雑談中の声に引かれた
4. その場でスピラーの台本を読んでもらった
5. 翌日、所属事務所へ正式に出演を依頼した
まるで漫画の重要人物が偶然その場へ現れ、停滞していた展開を一気に動かしたような話だよね!
ただし、単に有名俳優がジブリを訪れたから起用されたわけではありません。
ポイントは、鈴木敏夫プロデューサーが演技中ではない藤原竜也さんの話し声に、スピラーへ通じる魅力を感じたことです。
スピラー役の選考はなぜ難しかった?
スピラーはセリフの量が少なく、長い会話によって性格を説明できる人物ではありません。
その一方で、物語終盤に現れ、アリエッティ一家の未来を左右する役割を担います。
つまり、ほんのわずかな言葉だけで、次の要素を伝えなければならない役なんです。
- 屋外で暮らしてきた野性味
- 見知らぬ相手への警戒心
- 負傷者を助ける行動力
- 仲間を気づかう優しさ
- アリエッティ一家とは異なる生活文化
セリフで全部説明するなら、それほど難しい役ではないかもしれません。
しかしスピラーは、自分がどこで育ち、何を経験し、なぜ単独で行動しているのかをほとんど語りません。
声の響き、言葉を出すまでの間、相手との距離の取り方だけで人物像を成立させる必要があります。
報道によると、適任者が見つからない状況では、スピラーと雰囲気が似ている米林宏昌監督自身に演じてもらう案まで考えられていたそうです。
それほど「うまく話す声」ではなく、その世界で本当に生きていそうな声が求められていたのでしょう。
決め手は藤原竜也の普段の話し声だった
鈴木敏夫プロデューサーが注目したのは、藤原竜也さんの少し鼻にかかったように聞こえる声の響きだったと報じられています。
ここで大切なのは、完成された舞台演技を見て決めたのではなく、雑談中の自然な声を聞いて反応したことです。
作り込まれていない話し声の中に、少年らしい若さと、簡単には他人へ心を開かないような響きがあったのではないでしょうか。
もちろん、「警戒心まで声に含まれていた」という部分は、映画を見た僕自身の解釈です。
ただ、実際のスピラー役では、藤原竜也さんの声が持つ独特の引っかかりが、野外生活者らしい緊張感へつながっています。
鈴木敏夫プロデューサーは以前、舞台で藤原竜也さんの芝居を見て関心を持っていたとも報じられています。
それでも、今回の直接的な決め手は華やかな舞台上の姿ではなく、事務所で交わした普段の会話でした。
有名俳優の代表的な芝居ではなく、本人も強く意識していなかったであろう声の個性から役が生まれた。
この偶然性こそ、スピラーのキャスティング秘話で一番面白い部分だと僕は感じます。
藤原竜也のスピラー役は何がすごい?
藤原竜也さんのスピラー役で注目したいのは、感情を説明しすぎない演技です。
スピラーは、負傷したポッドを助けたときも、自分が立派なことをしたと語りません。
食料を差し出す場面でも、親切な理由を丁寧に説明するわけではありません。
翔が近づけばすぐ警戒し、アリエッティが別れを終えたあとは、言葉を重ねる代わりに赤い木の実を差し出します。
すべてに共通しているのは、言葉より先に行動する人物だということです。
藤原竜也さんも、その人物像に合わせ、感情を声へ過剰に乗せていません。
ポッドを助けた場面では恩着せがましさがない
スピラーは、新しい住居を探しに出て負傷したポッドを助け、アリエッティ一家の家まで連れてきます。
この時点でスピラーは、一家にとって命の恩人ともいえる存在です。
ところが、その声には英雄らしい誇らしさも、「助けてやった」という恩着せがましさもほとんど感じられません。
必要なことを短く伝え、相手の反応を静かに見ています。
これは冷たいのではなく、スピラーにとって困っている小人を助けることが、特別に飾り立てる行為ではないからでしょう。
藤原竜也さんは声の勢いを抑えることで、スピラーの親切を美談として押しつけず、日常的な行動として見せています。
この抑制があるからこそ、スピラーの優しさがかえって本物らしく見えるんだよね!
食料を差し出す場面では文化の違いが声にも表れる
アリエッティ一家は、人間の家から角砂糖や食料、生活用品などを少しずつ借りて暮らしています。
一方、スピラーは森や草むらを移動し、自分で食料を確保する生活を送っています。
彼が食料を差し出す場面は、同じ小人であっても、両者の暮らし方が大きく違うことを示す場面です。
スピラーは自分の食文化を詳しく説明しません。
相手が喜ぶはずだと決めつけるような声でもなく、ただ自分が持っているものを自然に差し出します。
アリエッティたちの反応を前にしても、大げさに怒ったり落ち込んだりしません。
言葉の少なさと微妙な間によって、「この少年にとっては普通の食事なのだ」と分かる構成になっています。
藤原竜也さんの淡々とした声は、スピラーを変わった食べ物を持ってくる面白キャラクターにはしません。
あくまで、人間の家に依存しない別の小人文化を背負う人物として成立させています。
翔へ弓を向ける場面では一瞬で緊張が生まれる
物語終盤、アリエッティ一家が屋敷を離れようとする場面へ翔が現れます。
アリエッティにとって、翔は母ホミリーの救出に協力してくれた大切な人です。
しかし、その事情を知らないスピラーにとって、人間は小人の存在を脅かす巨大な相手に見えます。
スピラーはすぐに弓を構え、翔を警戒します。
この場面で藤原竜也さんは、長い叫び声や説明的なセリフを使わず、短い発声によって空気を変えています。
それまでぶっきらぼうながら落ち着いていた少年が、危険を感じた瞬間だけ反応を鋭くする。
声量を極端に上げるのではなく、言葉を出す速度と緊張の強さを変えることで、野外で身につけた警戒本能を表現しているように感じられます。
なお、この行動をアリエッティへの嫉妬と解釈する意見もありますが、映画ではスピラーの恋愛感情は明言されていません。
まず作中で確認できるのは、未知の人間が仲間へ接近したため、スピラーが危険に備えたということです。
恋愛感情があった可能性は考察できますが、事実として断定しないほうが誠実でしょう。
木の実を渡す場面では声より沈黙が印象に残る
翔との別れを終えたアリエッティに、スピラーは赤い木の実を差し出します。
この場面で印象的なのは、励ましの言葉をたくさん並べないことです。
スピラーはアリエッティと翔の間に何があったのかを、すべて理解しているわけではないでしょう。
それでも、彼女が悲しんでいることは感じ取っています。
だからこそ、自分にできることとして木の実を渡すんです。
藤原竜也さんの演技も、ここで「優しい少年だ」と分かりやすく声へ書き込んではいません。
むしろ言葉を増やさず、動作の余白を残しています。
観客はその沈黙を見て、スピラーが何を考えているのかを想像します。
漫画でいえば、セリフのないコマで手元の小道具だけを大きく見せ、人物の感情を読者へ委ねる表現に近いんじゃないかな?
藤原竜也さんは声を足すことで感情を説明するのではなく、声を抑えることで映像の余白を生かしています。
これが、スピラー役における最大の演技ポイントだと僕は考えます。
スピラーはいつ登場し、物語で何をする?
スピラーは映画の序盤からアリエッティと一緒に行動する人物ではありません。
人間に存在を知られたアリエッティ一家が、現在の家を離れなければならなくなった物語後半に登場します。
主な役割は次の4つです。
- 負傷したポッドを助ける
- アリエッティ一家へ食料を差し出す
- 一家を新しい生活の場へ案内する
- 人間の翔を警戒し、アリエッティを守ろうとする
登場時間だけを見ると、スピラーは主要人物より短いかもしれません。
しかし、物語上の役割はかなり大きいんです。
アリエッティ一家はハルに存在を知られ、ホミリーを捕らえられ、長く暮らした家を捨てることになります。
翔の協力によってホミリーは救出されますが、一家が同じ床下で暮らし続けることはできません。
そこで現実的な道を用意するのがスピラーです。
彼はポッドを助けるだけでなく、ほかの小人が暮らせる場所へ一家をつなぎます。
つまり、スピラーがいなければ、アリエッティ一家の旅立ちは行き先の見えない逃亡になってしまいます。
スピラーがいることで、結末は「住まいを奪われた家族の悲劇」から、「新しい土地へ向かう家族の再出発」へ変わるんです。

スピラーの声と役割から何が見えてくる?
ここからは、映画本編とキャスティング報道を踏まえた僕の考察です。
藤原竜也さんがスピラーを演じた意味は、知名度の高い俳優を声優として起用したことだけではありません。
むしろ重要なのは、観客が抱く藤原竜也さんの「激しい演技」の印象をあえて封印し、スピラーという人物のために声を引き算したことです。
有名俳優の存在感を消したからスピラーが生きた
有名な俳優がアニメーション作品へ出演すると、キャラクターより演じている本人の顔が浮かんでしまう場合があります。
しかしスピラーの場合、藤原竜也さんの代表的な演技を連想させるような派手さは抑えられています。
言葉は短く、抑揚も必要以上につけず、感情を説明しません。
その結果、観客は藤原竜也さん本人ではなく、草むらや川辺で生きてきた小人の少年へ集中できます。
僕は、これは非常に思い切ったキャスティングの成功例だと感じます。
俳優の得意な演技をそのまま使うのではなく、普段の話し声から役に必要な成分を見つけ、作品に合わせて削っていく。
だからこそスピラーは、登場した瞬間から「この世界のどこかで以前から生活していた人物」に見えるのでしょう。
スピラーはアリエッティに別の生き方を示す
アリエッティは、床下の家で両親と暮らし、人間から必要なものを借りる生活を小人の常識として育ちました。
ところがスピラーは、屋外を移動し、自分で食料を確保しています。
彼の登場は、アリエッティが知っていた小人の世界が、ほんの一部にすぎなかったことを示します。
人間の家を失っても、小人の暮らしそのものが終わるわけではありません。
これまでとは違う方法で生きる小人がいて、別の土地には新しい共同体が存在する可能性もある。
スピラーは説明役として長々と世界設定を語りません。
自身の服装、弓、食料、行動だけで、アリエッティへ別の生き方を見せています。
その人物を藤原竜也さんが寡黙に演じたことで、「外の世界は危険だが、生きる道もある」というメッセージが説教くさくならずに伝わっているんです。
翔とスピラーは異なる希望を表している
翔とスピラーは、アリエッティに異なる可能性を示す人物です。
翔は、人間と小人という大きく異なる存在でも、相手を理解し、助け合えることを示しました。
一方のスピラーは、小人が人間の家を離れても、自分たちの力で暮らし続けられることを示します。
翔はアリエッティの心を支え、スピラーは一家の移動を現実的に支えるんです。
この二人を単純な恋愛上のライバルとして見ると、物語の大切な部分を見落としてしまうかもしれません。
個人的には、スピラーはアリエッティの新しい恋愛相手として登場したというより、翔との別れの先にも人生が続いていくことを示す人物だと考えています。
アリエッティは大切な友人と別れ、住み慣れた家も失います。
それでも、物語はそこで終わりません。
同じ小人でありながら、自分とはまったく違う生活をしてきたスピラーと出会い、未知の土地へ向かっていきます。
スピラーの声が過度に感情的ではないのも、この結末に合っています。
未来は幸せだと断言されているわけではありません。
危険も不安も残っています。
それでも進めるという静かな力を、藤原竜也さんの張り詰めた声が支えているように感じられるんです。
原作シリーズのスピラーはどこから登場する?
映画『借りぐらしのアリエッティ』は、イギリスの作家メアリー・ノートンによる児童文学『床下の小人たち』を原作としています。
ただし、スピラーはシリーズ第1作『床下の小人たち』から登場する人物ではありません。
2010年6月3日付のシネマトゥデイの記事では、スピラーは小人の冒険シリーズ第2作『野に出た小人たち』に登場する人物だと紹介されています。
映画版は第1作の設定を中心としながら、アリエッティ一家が屋敷の外へ出る展開に合わせて、後続作品の要素も取り入れた構成です。
スピラーを物語終盤へ登場させたことで、映画は一つの作品の中に「床下での暮らし」と「野外へ出たあとの暮らし」の両方を描けるようになりました。
これは単なる原作キャラクターの追加ではないでしょう。
第2作以降の世界を知るスピラーを配置することで、アリエッティ一家の引っ越しに具体的な行き先と希望を与えています。
漫画作品でも、原作の後半に登場するキャラクターを早めに配置し、一本の映像作品として物語を着地させる再構成がありますよね。
スピラーも同じように、原作シリーズの広がりを一人で背負いながら、映画版の結末を成立させる役割を果たしたと考えられます。
まとめ
『借りぐらしのアリエッティ』でスピラーの声優を担当したのは、俳優の藤原竜也さんです。
スピラー役の選考は難航していましたが、藤原竜也さんがスタジオジブリの事務所を訪れた際、鈴木敏夫プロデューサーが雑談中の声に引かれました。
その場で台本を読んでもらい、翌日には所属事務所へ出演を依頼したと報じられています。
藤原竜也さんは、普段の激しい演技とは対照的に、短い言葉と抑えた抑揚でスピラーを表現しました。
特にポッドを助ける場面、翔を警戒する場面、アリエッティへ木の実を渡す場面では、言葉を増やさず、声と沈黙の間で心情を想像させています。
スピラーは単なる無口な脇役ではありません。
アリエッティ一家を新しい土地へ導き、物語を「家を失った悲しみ」から「未知の世界への旅立ち」へ変える重要人物です。
藤原竜也さんの名前を意識して見返すと、俳優本人の個性を押し出すのではなく、スピラーの生活感を守るために声を引き算した演技の巧さが、より深く味わえるんじゃないかな?
よくある質問
『借りぐらしのアリエッティ』のスピラー役は誰ですか?
スピラーの声優は、俳優の藤原竜也さんです。スタジオジブリの公式作品情報にも、声の出演者として掲載されています。
藤原竜也さんはなぜスピラー役に選ばれたのですか?
藤原竜也さんがジブリの事務所を訪れた際、鈴木敏夫プロデューサーが雑談中の声に魅力を感じたことがきっかけです。その場で台本を読み、翌日に所属事務所へ出演依頼が行われたと報じられています。
スピラーはアリエッティを好きなのですか?
恋愛感情は映画の中で明言されていません。翔への警戒や木の実を渡す行動から好意を感じることはできますが、仲間を守る意識や親切心としても解釈できます。
ジョウスター(漫画レビュアー・コミック愛好家)



