『借りぐらしのアリエッティ』は、スタジオジブリが制作した正式なジブリ作品です。監督は米林宏昌さん、宮﨑駿さんは企画・脚本、東宝は配給を担当しました。
「宮﨑駿監督の映画ではないのに、なぜジブリなの?」「東宝が作った作品ではないの?」という疑問も、公式クレジットと制作体制を分けて確認すれば迷わず整理できます。
借りぐらしのアリエッティは正式なジブリ作品なの?
結論から言うと、『借りぐらしのアリエッティ』はスタジオジブリの正式な長編アニメーション映画です。
その根拠は、単に「絵柄がジブリっぽい」「宮﨑駿さんが関わっている」といった印象ではありません。
スタジオジブリ公式サイトの「スタジオジブリの作品」には、本作が『借りぐらしのアリエッティ(2010)』として掲載されています。
さらに、2009年12月16日に公開されたスタジオジブリ公式の発表「『借りぐらしのアリエッティ』の制作を発表しました」では、2010年夏に公開する「スタジオジブリ最新作」として作品名が発表されました。
公式作品ページで確認できる主な情報は、次のとおりです。
- 作品名:『借りぐらしのアリエッティ』
- 公開日:2010年7月17日
- 企画・脚本:宮﨑駿
- 原作:メアリー・ノートン
- 脚本:丹羽圭子
- 監督:米林宏昌
- プロデューサー:鈴木敏夫
- 制作:星野康二
- 音楽・主題歌:セシル・コルベル
- 上映時間:約94分
- 配給:東宝
ここで特に注目したいのは、監督、企画・脚本、配給が別々の人物や会社として記載されていることです。
映画は一人の作家だけで完成するものではありません。企画を立てる人、脚本を書く人、映像全体を統括する監督、制作を支えるスタッフ、完成作品を映画館へ届ける配給会社が、それぞれの役割を担っています。
スタジオジブリ公式の「作品の著作権表示」にも、本作の表記として「© 2010 Mary Norton/Keiko Niwa/Studio Ghibli, NDHDMTW」と記載されています。
つまり、公式作品一覧、制作発表、作品別クレジット、著作権表示のいずれを見ても、スタジオジブリ作品であることは明確なんだよね!
制作・製作・配給は何が違う?
『借りぐらしのアリエッティ』を調べるときに、最も混乱しやすいのが「制作」「製作」「アニメーション制作」「配給」という言葉の違いです。
どれも映画作りに関係する言葉ですが、示している役割は同じではありません。
確認項目 本作での担当 主な役割
作品を生み出したスタジオ スタジオジブリ 作画、美術、演出などを通じてアニメーション本編を形にする
監督 米林宏昌 絵コンテ、演技、画面構成など映像表現全体を統括する
企画・脚本 宮﨑駿 映画化の企画を立て、物語の骨格を作る
脚本 丹羽圭子 宮﨑駿とともに映画の脚本を担当する
プロデューサー 鈴木敏夫 企画や制作体制、宣伝などを総合的に支える
配給 東宝 完成した映画を劇場へ届け、公開や宣伝を担う
公式クレジット上の「制作」 星野康二 作品ページに記載された役職・担当者名
まず、一般に「制作会社はどこ?」と尋ねる場合は、実際にアニメーション映像を作ったスタジオはどこかという意味で使われることが多いでしょう。
『借りぐらしのアリエッティ』の場合、その答えはスタジオジブリです。
一方、映画業界では、資金調達や事業全体の運営に関わる主体を「製作」と表記する場合があります。「制作」と「製作」は同じ読み方ですが、文脈によって意味が変わるため注意が必要です。
さらに、本作の公式作品ページには「制作 星野康二」とあります。
これは、星野康二さんが制作会社の名称だという意味ではありません。公式クレジットにおける担当者の役職表記であり、「アニメーション制作会社はどこか」という質問への答えとは分けて考える必要があります。
ここを一緒にしてしまうと、「星野康二さんが映像制作を行う会社なの?」「スタジオジブリは制作していないの?」という妙な混乱が生まれてしまいます。
映画の所属を確認するときは、一つの「制作」という単語だけを切り取るのではなく、次の情報を合わせて判断するのが確実です。
- どのスタジオの公式作品一覧に掲載されているか
- 制作発表でどの会社の新作として紹介されたか
- 監督や脚本家がどのようにクレジットされているか
- 配給会社はどこか
- 著作権表示にどの権利者名が記載されているか
この確認方法を使えば、『借りぐらしのアリエッティ』はスタジオジブリの作品であり、東宝は配給を担当した会社だと整理できます。
たとえるなら、スタジオジブリが料理を作る厨房だとすれば、東宝は完成した料理を各地のお客さんへ届ける仕組みを担う存在です。
どちらも作品の公開には欠かせませんが、「作る役割」と「届ける役割」は別なんだよね。
宮﨑駿監督ではないのに、なぜジブリ作品なの?
『借りぐらしのアリエッティ』の監督は、宮﨑駿さんではなく米林宏昌さんです。
スタジオジブリ公式作品ページでも、「企画・脚本 宮﨑駿」「監督 米林宏昌」と役割が明確に分けられています。
ここで押さえておきたいのは、「スタジオジブリ作品」と「宮﨑駿監督作品」は同じ意味ではないということです。
スタジオジブリは、宮﨑駿さん個人を示す名称ではありません。複数の監督、アニメーター、美術スタッフ、撮影スタッフなどが作品を生み出してきたアニメーションスタジオです。
宮﨑駿さん以外が監督した代表的なジブリ長編映画には、次のような作品があります。
- 高畑勲監督『火垂るの墓』
- 高畑勲監督『平成狸合戦ぽんぽこ』
- 高畑勲監督『かぐや姫の物語』
- 近藤喜文監督『耳をすませば』
- 森田宏幸監督『猫の恩返し』
- 宮崎吾朗監督『ゲド戦記』
- 宮崎吾朗監督『コクリコ坂から』
- 米林宏昌監督『借りぐらしのアリエッティ』
- 米林宏昌監督『思い出のマーニー』
こうして並べると、「ジブリ映画ならすべて宮﨑駿監督」という認識が正しくないことが分かります。
むしろ、作品ごとに異なる監督が自分の感性を持ち込みながら、スタジオに蓄積された作画力や美術表現を受け継いでいる点こそ、ジブリ作品群の面白さではないでしょうか。
ただし、『借りぐらしのアリエッティ』に宮﨑駿さんがほとんど関与していないわけでもありません。
宮﨑駿さんは企画・脚本を担当し、イギリスの作家メアリー・ノートンによる児童文学『床下の小人たち』を、日本を舞台とするアニメーション映画へ翻案する土台を作りました。
映画の物語では、古い屋敷の床下に暮らす小人の少女アリエッティと、療養のため屋敷を訪れた少年・翔の出会いが描かれます。
宮﨑駿さんが物語の出発点と脚本を作り、米林監督が絵コンテ、演技、画面構成、映像のテンポなどを統括して一本の映画として完成させた、と考えると分かりやすいでしょう。
企画者と監督が異なることは、作品の正統性を弱める要素ではありません。
むしろ、誰がどこを担当したのかを知ることで、「物語の骨格には宮﨑駿さんの問題意識があり、映像の繊細さには米林監督の持ち味が表れている」という二層の楽しみ方ができるんじゃないかな?
米林宏昌監督はなぜ起用されたの?
米林宏昌さんの起用は、単なる代役ではなく、スタジオジブリが若手監督へ作品を託す計画の第一弾という意味を持っていました。
スタジオジブリ公式サイトの「スタジオジブリの歴史」には、「若手監督の起用」という項目があります。
そこでは、『崖の上のポニョ』の制作後、宮﨑駿監督が新たな5か年計画を発表したと説明されています。
その内容は、2010年と2011年に若手監督による新作を発表し、その2年後に宮﨑駿監督自身の作品を公開するというものでした。
この方針に沿い、2009年12月に企画・脚本を宮﨑駿さんが担当する『借りぐらしのアリエッティ』の制作が発表されます。
そして、若手監督起用の第一弾として選ばれたのが、スタジオジブリでトップアニメーターとして活躍していた米林宏昌さんでした。
当時の米林さんは、長編映画の監督経験がありませんでした。
スタジオジブリ公式の日誌では、2010年7月に37歳を迎えた米林監督を「ジブリ最年少監督」と紹介しています。また、2010年4月26日の公式告知でも、「スタジオジブリ史上最年少監督となる米林宏昌監督」と説明されていました。
もちろん、若いから選ばれたというだけではありません。
米林さんはスタジオジブリでアニメーターとして経験を積み、キャラクターの細かな動きや感情を絵で表現する力を評価されていました。
『借りぐらしのアリエッティ』では、その強みが小人の目線を通した空間表現に生かされています。
人間にとっては何でもない床の段差が、小人にとっては高い崖になります。角砂糖は抱えるほど大きな食料になり、待ち針は剣や登山道具のように見えるんです。
こうしたスケール感は、設定を説明するセリフだけでは成立しません。
アリエッティの歩幅、道具の重さ、布や植物の揺れ、巨大に響く生活音など、細かなアニメーションの積み重ねによって初めて説得力が生まれます。
米林監督の起用は、新人に監督の肩書だけを与えた試みではなく、優れたアニメーターの表現力を長編映画全体へ広げる挑戦だったと考えられるでしょう。
「アリエッティはジブリじゃない」と誤解される理由は?
『借りぐらしのアリエッティ』が正式なジブリ作品であるにもかかわらず、「ジブリじゃないのでは?」と疑われる理由は、公式に発表されたものではありません。
ここからは、作品のスタッフ構成や作風から考えられる主な要因を整理します。
宮﨑駿さんが監督ではない
最も分かりやすい要因は、監督欄に宮﨑駿さんの名前がないことです。
『となりのトトロ』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』などの印象が強いため、「ジブリ映画=宮﨑駿監督」と覚えている人も少なくないでしょう。
その状態で米林宏昌という名前を目にすると、別の制作会社による作品だと感じる可能性があります。
しかし、作品の所属は監督名だけでは決まりません。
公式作品一覧、制作発表、著作権表示、制作スタジオといった複数の情報を確認する必要があります。
海外児童文学が原作になっている
本作の原作は、メアリー・ノートンの児童文学『床下の小人たち』です。
宮﨑駿さんによる完全なオリジナル作品ではないため、ジブリとの結びつきが薄く見える人もいるのかもしれません。
ただし、海外文学を原作とするジブリ映画は本作だけではありません。
『ハウルの動く城』はダイアナ・ウィン・ジョーンズの小説、『思い出のマーニー』はジョーン・G・ロビンソンの児童文学を原作としています。
原作者の国籍や原作の種類によって、ジブリ作品かどうかが決まるわけではないんだよね。
宮﨑駿監督作より静かな物語に見える
本作の主な舞台は、一軒の屋敷と床下、そして周囲の庭です。
世界を揺るがす戦争や空を飛ぶ冒険ではなく、アリエッティ一家が人間に見つからず暮らし続けられるかどうかが物語の軸になっています。
そのため、壮大な冒険映画を「ジブリらしさ」と考えている人には、雰囲気が違って見えるかもしれません。
しかし、小さな生活の中から未知の世界を立ち上げることも、アニメーションの大きな魅力です。
角砂糖、洗濯ばさみ、両面テープ、ティッシュ、待ち針といった日用品が、小人の視点では貴重な物資や巨大な道具へ変わります。
これは「普通の物を、視点を変えて特別な物にする」表現です。
派手な飛行シーンとは異なるものの、日常の風景に驚きや生命感を与えるという点では、ジブリ作品らしい想像力が詰まっていると僕は感じます。

考察:アリエッティはジブリの世代継承を示した作品
ここからは、公式資料を踏まえた僕の考察です。
『借りぐらしのアリエッティ』の重要性は、正式なジブリ作品かどうかを確認できるだけではありません。
本作は、スタジオジブリが蓄積してきた技術を、宮﨑駿さんや高畑勲さんに続く監督へどう受け渡すかという課題に向き合った作品でもあります。
スタジオジブリ公式の歴史では、米林監督の起用を若手監督による新作計画の第一弾として位置づけています。
つまり、本作は最初から「宮﨑駿監督作品の代用品」として作られたわけではありません。
宮﨑駿さんが企画と脚本を用意し、米林さんが監督として作品全体を引き受ける。ベテランスタッフも新人監督を支えながら制作するという、世代継承を意識した体制だったわけです。
その結果、米林監督は2014年公開の『思い出のマーニー』でも監督を務めました。
スタジオジブリ公式は同作の紹介で、『借りぐらしのアリエッティ』を米林監督のデビュー作として明記しています。また、『思い出のマーニー』は高畑勲・宮﨑駿両監督が関わらない初めてのジブリ長編映画と説明されました。
この流れを踏まえると、『借りぐらしのアリエッティ』は一本の映画として完結しているだけでなく、次の監督作品へつながる足場になったと考えられます。
僕が面白いと思うのは、世代交代を描く作品が、物語の中でも「限られた環境から一歩を踏み出す少女」を主人公にしていることです。
アリエッティは、両親に守られた床下の家で暮らしています。
しかし、初めての「借り」に出て、人間の翔と出会い、これまでの生活が永遠には続かない現実に向き合います。
一方の米林監督も、トップアニメーターとして作品を支える立場から、映画全体の責任を負う監督へ踏み出しました。
もちろん、アリエッティの物語と制作現場を同一視することはできません。
それでも、慣れ親しんだ場所から外へ踏み出し、自分の力で次の居場所を探すという作品の主題が、若手監督へ長編映画を託す制作背景と重なって見えるんです。
もう一つ注目したいのが、アリエッティと翔の対比です。
体の大きさでは、翔がアリエッティを圧倒しています。しかし、翔は心臓の病気を抱え、手術を前に生きる希望を失いかけていました。
反対に、アリエッティは非常に小さな存在でありながら、危険な屋敷を進み、家族のために行動します。
身体の大きさと生命力の大きさが反転しているわけです。
翔はアリエッティとの出会いを通じて、自分よりはるかに小さな存在が必死に生きていることを知ります。
小人の存在は、翔を救う魔法ではありません。それでも、「生きようとする他者の姿を見ること」が、彼の内面を少しずつ変えていきます。
僕は、この静かな感情の受け渡しに米林監督らしさを感じます。
大きな演説や派手な奇跡ではなく、視線、間、手の動き、庭の光といった映像の積み重ねによって、二人の変化を伝えているからです。
「宮﨑駿監督作と雰囲気が違うからジブリではない」と考えると、この作品の面白さを狭めてしまいます。
公式クレジットで制作体制を正確に理解したうえで、監督ごとの違いを味わう。
そうすれば、『借りぐらしのアリエッティ』はジブリらしさを薄めた作品ではなく、ジブリ作品の表現と作り手の幅を広げた一本として見えてくるんじゃないかな?
まとめ
『借りぐらしのアリエッティ』は、スタジオジブリが制作した正式なジブリ作品です。
スタジオジブリは2009年12月16日の公式発表で、本作を2010年夏公開の「スタジオジブリ最新作」として発表しました。
公式作品一覧には2010年7月17日公開作品として掲載され、作品ページには監督・米林宏昌、企画・脚本・宮﨑駿、脚本・丹羽圭子、配給・東宝などのクレジットが記載されています。
役割を整理すると、次のようになります。
- スタジオジブリ:アニメーション作品を生み出したスタジオ
- 米林宏昌:映像表現全体を統括した監督
- 宮﨑駿:映画化の企画と脚本を担当
- 丹羽圭子:脚本を担当
- 鈴木敏夫:プロデューサーを担当
- 星野康二:公式クレジット上の「制作」を担当
- 東宝:完成した映画を劇場へ届ける配給を担当
東宝が配給していることや、宮﨑駿さんが監督ではないことは、ジブリ作品である事実と矛盾しません。
また、本作は米林監督を若手監督起用の第一弾として抜擢した作品でもあり、スタジオジブリの技術や制作文化を次の世代へつなぐ重要な一作でした。
『借りぐらしのアリエッティ』は、宮﨑駿さんが企画と物語の土台を作り、米林監督が繊細なアニメーションとして完成させた、正真正銘のスタジオジブリ映画です。
よくある質問
借りぐらしのアリエッティの制作会社はどこですか?
作品を制作したアニメーションスタジオは、スタジオジブリです。公式サイトの作品一覧にも、2010年公開のジブリ作品として掲載されています。
借りぐらしのアリエッティは宮﨑駿監督作品ですか?
いいえ。監督は米林宏昌さんです。宮﨑駿さんは企画・脚本を担当し、丹羽圭子さんも脚本を担当しました。
東宝が配給しているのにジブリ作品なのですか?
はい。東宝は完成した映画を劇場へ届ける配給会社です。アニメーションを制作したスタジオがスタジオジブリであることとは、役割が異なります。
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